彼の歌は「非日常」ではない

Alldayはロサンゼルスを拠点に活動するオーストラリア人のラッパー。
以前はメルボルンで活動を続けていましたが、現在は拠点を移し、より多くの人へ作品を届けるべく精力的に活動しています。

彼の作るトラックは派手さや目辺りさこそ見受けられないものの、流行をおさえつつも彼の人柄や精神世界がうっすらと透けるような日常的で、暖かい楽曲。そして良い意味で「シンガー的ではない声」を持ち合わせています。

作り上げられたものではなく、あくまで彼の持ち味を生かしたそのスタイルは多くの人の共感を得て、彼はミュージシャンとしての実績を確かなものにして来ました。

シンプルなライムと、無駄のないサウンド

2017年にリリースされたアルバム「Speeding」はトラップ的なリズムを積極的に取り入れつつ、当時の流行に乗っ取った退廃的なシンセ・サウンドなども見受けられますが、全体的に明るく穏やかなテーマの楽曲も散見されます。

深夜から明け方にかけての、少し冷えて張り詰めた空気のようなハイハットと全体をぼんやりと覆うシンセが、あの時間特有の何とも言えない高揚感を生み出す「First Light」に始まり、アンビエントやポストロック的アプローチにも似た浮遊感と、全体的にブライトなAlldayの歌声が見事にマッチングした「in Motion」。

ビッグルームハウスとトラップの中間に位置するような、フラットなテンションで進行されてゆく「Raceway」など、流行をくみ取りつつ楽曲のテーマに沿うよう練り込まれたトラックと押韻自体は全体的にシンプルなものの、時折挟み込まれる予想外のパンチラインに心がぐっと掴まれる爽快感のある作品です。

コラボレーションによってくっきりと見えるAlldayの魅力

本作「Speeding」は同じくオーストラリア出身のJapanese Wallpaperをはじめ、いくつかのアーティストとコラボレーションした楽曲が収録されています。

例えばアルバムの終盤「Baby Spiders」などは、幻想的なトラックに絶妙にマッチした女性コーラスと、穏やかに歌いあげるAlldayの声がシンクロした時に思わずハッとさせられるような感覚はAlldayならでは。

バリエーション豊かなトラックと、心に入りやすいメロディ。日常的なテーマを穏やかに歌うAlldayだからこそできた、目新しさこそないけれど、どこか新鮮な気持ちにさせてくれる作品。

新生活や新しい環境が始まるこれからの季節、思わぬ事態や予想もつかない得も言えぬ不安に気持ちを切り替えたくなる時「Speeding」はその背中を優しく押してくれることでしょう。



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